大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和60年(オ)374号 判決 1986年9月04日

上告人 中野貴子

被上告人 飯田イソ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人○○○○、同○○○の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係によれば、(一)被上告人と中野勇作(以下「勇作」という。)とは昭和15年11月25日婚姻の届出をした夫婦であつたところ、同48年2月20日付で協議離婚の届出(以下「本件離婚」という。)がされ、その旨戸籍に記載されている、(二)勇作と上告人は昭和48年2月21日婚姻の届出(以下「本件婚姻」という。)をした、(三)勇作は昭和56年8月26日死亡した、(四)被上告人は、昭和56年10月15日○○地方検察庁検察官(以下「検察官」という。)及び上告人を共同被告として訴えを提起し、検察官に対する関係においては、本件離婚を無効とする旨の判決を、上告人に対する関係においては、本件婚姻を取消す旨の判決をそれぞれ求めた、というのである。

ところで、本件離婚の無効確認請求と本件婚姻の取消請求とは、法律上それぞれ独立の請求であつて、固有必要的共同訴訟に当たらないのはもとより、いわゆる類似必要的共同訴訟にも当たらないと解されるから、本件訴訟の目的が検察官及び上告人の両名全員につき合一にのみ確定すべき場合には当たらないとした原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、独自の見解に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷口正孝 裁判官 角田禮次郎 高島益郎 大内恒夫 佐藤哲郎)

上告代理人○○○○、同○○○の上告理由

一 原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈、適用を誤つた違法がある。以上、その理由を述べる。

二 原判決までの経過概要

1 本件訴は、被上告人が検察官と上告人を共同被告として、対被告検察官との関係においては、被上告人と亡中野勇作(以下、亡勇作という)間の離婚の無効確認を請求し、又対被上告人との関係においては被上告人と亡勇作との右離婚が無効であることを前提とした重婚を理由に、上告人と亡勇作との後婚たる婚姻の取消を請求したものである。

2 一審の審理では、被告検察官は、冒頭に答弁書を提出しただけで、それ以降判決に至るまで何らかの主張立証はおろか、弁論への出頭すらせず、上告人において、検察官が被告とされている離婚無効確認請求事件についても、事実上反証してきたものである。

一審においては、特に、本件二つの請求に関し、共同訴訟ないし補助参加等の関係の求釈明もなされず、又分離されることもないまま共同訴訟として訴訟追行され判決に至つた。

3 上告人は、被上告人の右請求をいずれも認容した一審判決に対し、「被控訴人の敗訴部分について取消す。被控訴人の請求を棄却する」旨の控訴を申立てた。この控訴に対し、原判決は、被上告人と検察官の間の離婚無効を確認する部分の第一審判決が確定し、上告人においても人事訴訟手続法18条1項の準用により右判決の効力を受け、本件離婚が無効であることを争い得ない、としてこれを理由に、重婚の関係にある亡勇作と上告人の婚姻の取消請求が認められる旨判示し、上告人の控訴を棄却したものである。

三 離婚無効の部分に関する判決の確定の遮断

1 原審において、上告人は、原判決のいう離婚無効の判決部分の確定の成否に関し、本件離婚無効の請求と、この離婚無効による重婚を理由とした婚姻取消の請求は必要的共同訴訟の関係にあり、従つて、上告人による婚姻取消の部分の判決に対する控訴(本件控訴)によつて、本件離婚無効に関する判決部分についても確定は遮断されている旨主張してきた。

2 これに対し、原判決は、「本件の各請求は、本件離婚無効が本件婚姻取消請求の前提問題(先決事項)となつているとはいえ、・・・・・・現行法制のもとにおいては、いまだ論理的要求にすぎないものというべきであるから、本件各請求が検察官及び控訴人の両名全員につき合一にのみ確定すべき場合には当らない」旨判示し、前記のとおり、本件離婚無効の部分の判決の確定を認定した。

3 しかしながら、後記のとおり、原判決は、必要的共同訴訟の範囲に関し、民事訴訟法第62条に規定する「合一にのみ確定すべき場合」の解釈を誤り、その結果判決確定の効力に関する法令の適用を誤つたものである。

四 必要的共同訴訟の成否

1 民事訴訟法第62条の「合一にのみ確定すべき場合」の解釈については変遷があり、現在においても様々な異論がある。「合一確定」とは、一般に、判決が法律上合一にのみ確定すべき場合、すなわち共同訴訟人の1人についてなされた判決の既判力が互いに他に及ぶ関係があつて、その間矛盾した判決をなしえない場合と解されている。しかし、こうした一般的抽象的基準による判例理論にも、具体的訴訟において必らずしも一貫したものがなく、結局具体的事件における個別決定的になっているのが実情である。(例えば、共有関係訴訟)

実際の具体的訴訟にあつては、必要的共同訴訟と通常共同訴訟の中間に位置する訴訟が多数存在する。そうした現状にあつて、司法の能率的な運営あるいは具体的事案の解決の妥当性と合理性からみて、1個の訴訟、1個の判決で解決されるべきものが多々あるとき、従前の「共同訴訟人間に互いに判決の既判力が及ぶ場合」という基準で必要的共同訴訟の範囲を形式的に画することは不合理な結果を招いている。

2 原判決は、「合一にのみ確定すべき場合とは、訴の提起あるいは判決が各共同訴訟人全員につき合一にのみなされるべきであり、区々となつてはならない法律上の必要がある場合をいうのであつて、単に事実上、又は論理上合一確定の要請があるというだけでは足りないと解すべき」と判示している。

しかしながら、右にいう「法律上の必要」について、必らずしも既判力の抵触回避という訴訟法的観点からのみならず、訴訟の目的が共同訴訟人につき実体法上合一に裁判されなければならない場合を含むと解すべきである。

3 以上のことを前提に、本件二つの請求の関係を具体的に分析してみる。

(1) 離婚無効の請求と婚姻取消の請求は、一般的には必らずしも1個の事実関係にあるわけでなく、原判決のいうように、「法律上はそれぞれ別個独立の請求として別個独立の訴訟物」である。

(2) しかしながら、本件事案のように、離婚無効による重婚を理由とした婚姻取消請求の場合は、前者は後者の請求の前提問題(先決事項)となっているのであり、まさに実体上1個の事件であり、実体法上は合一に確定すべき必要がある。

(3) しかも、離婚無効の判決は、既判力が拡張され、対世的効力が法律上認められることになつている(人事訴訟法18条)。

(4) 原判決は当事者適格もそれぞれ法定されていること、訴提起も判決も別個独立になされうることをその理由に挙げているが、これは一般論としてはともかく、本件具体的事案に関する「合一確定の必要」の成否の判断に際しては、問をもつて問に答える式の論法で、何ら理由とならない。

(5) 原判決の判示するように、仮に、本件において、被上告人が前婚の夫を相手に前婚の離婚無効確認の請求を別個独立して先に提起し、判決を確定させた場合、右離婚無効の裁判に全く関与し得ない後婚の配偶者(上告人の立場)には、何らの反論防禦の機会が与えられないまま、婚姻取消の請求に敗訴しなければならなくなる。

(6) 前例の場合に、「夫」が生存しているならば、後婚の配偶者は前婚の離婚無効確認の訴訟の存在を知り、それに参加しうる途は残されているともいえるが、本件の加く、「夫」が死亡した後に提起された検察官を被告とする離婚無効確認の訴が別途に提起された場合には、その訴訟の存在すら知らないまま、第三者間の裁判の結果の効力のみを受忍せざるを得ないことになり、このことの不合理性、不公正さは明らかであろう。

しかも、本件の如く、被告たる検察官が、一片の答弁書の提出のみでその他一切の訴訟追行、調査すらもなされずに終結されたような場合を考えるとその不合理性は一層明らかであろう。

4 (1) 以上のとおり、一般的に離婚無効と婚姻取消の二つの請求が「合一確定すべき場合」にあたるとはいえないとしても、前婚の離婚無効の請求と、それに基づく重婚を理由とした後婚の婚姻取消の請求との間については、単に論理上にとどまらず、両訴訟当事者に実体法上、訴訟法上合一確定をする必要が認められるのであつて、固有必要的共同訴訟にあたると解すべきである。

(2) 仮に固有必要的共同訴訟でないとしても、会社合併無効の訴(商法104条)や株主総会決議無効確認の訴(商法252条)などに認められているように、人事訴訟法18条の準用によつて判決の既判力が拡張され対世的効力が認められる離婚無効確認の請求と、それを前提とした婚姻取消の請求については類似必要的共同訴訟と解されるべきである。

(3) 更に、これが従前の必要的共同訴訟の範囲に認められないとしても、前記3で指摘した重大な不合理性を有した本件二つの請求について、原判決も認めている「論理上の合一確定の要請」は勿論、実体法上も合一確定が認められるべきである以上、民事訴訟法第62条と同第61条の規定の中間領域の訴訟として、必要的共同訴訟の規定を準用して、取扱うべきである。右二つの請求が別訴として提起されればともかく、本件のように、同一訴訟手続において審理される場合には、民訴法第62条を準用して各請求につき実体法上論理的に合一的判断がなされるべきであつて、そのことは民訴法第71条がすでに認めているところの手続きでもある。

五 原判決の誤り

しかるに、原判決は、本件二つの請求の特殊な事情を深く検討することなく、必要的共同訴訟の範囲について抽象的形式的な基準に拘泥し、民訴法第62条の「合一にのみ確定すべく場合」の具体的解釈を誤り、判決確定の効力の適用を誤つた違法がある。

しかも、本件は複雑な背景的事情と被上告人らの虚偽の主張や偽装工作など極めて難解な事実関係があるにもかかわらず、原審ではこれについて上告人において請求したにもかかわらず全く主張立証をする機会を与えず事実審理をしないままに、前記のとおり、事実関係につき判断することもなく控訴棄却の判決を下したものである。従つて、右法令解釈適用の誤りが判決の結果に影響を及ぼすものであることは明白であり、よつて原判決は違法であつて破棄されるべきものである。

〔参照1〕二審(東京高 昭59(ネ)1370号 昭59.12.25判決)

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一 控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二 当事者双方の主張は、当審において新たに陳述された各主張を次のとおり付加するほか、原判決事実摘示中「主張」欄の控訴人と被控訴人との関係部分のとおりであるから、これを引用する。

1 被控訴人

被控訴人の控訴人に対する本件婚姻の取消請求の前提である、被控訴人と勇作との本件離婚が無効であることについては、既に本件離婚を無効とする原判決が確定している。

2 控訴人

(一) 被控訴人の右主張は争う。

原審における被控訴人の検察官に対する本件離婚の無効確認請求と控訴人に対する本件離婚の取消請求とは、検察官と控訴人の両名につき合一に確定すべき場合(必要的共同訴訟)であるから、控訴人の本件控訴により、原判決中被控訴人と検察官との間の本件離婚無効確認請求に関する部分も確定は遮断されている。

(二) (事実関係について)

(1) 被控訴人と勇作とが別居した昭和43年当時、勇作は、それまで営んでいた小売電気商の累積赤字が1300万円にも及んで倒産し、一家離散のやむなきに至ったもので、この経緯は、被控訴人も十分知っており、被控訴人と勇作との本件離婚が有効に成立する機縁となつたものである。

(2) 被控訴人は、自らの住民票に勇作との離婚の事実が記載され、自らが筆頭者とされるに至つていることや、勇作と控訴人との間に子ができていることをかねてから知るに至つていたが、何らの手段も手続も講じないまま日時を経過したものである。したがつて、本件離婚につき、被控訴人が離婚意思を有したことを十分推認し得るし、仮に、しからずとしても、被控訴人は勇作との離婚を追認していたというべきである。

三 証拠関係[略]

理由

一 方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第1、第2号証及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人と勇作(原判決主文一掲記の中野勇作)は、昭和15年11月25日、婚姻届を了して夫婦となつたが、昭和48年2月20日、右両人名義の協議離婚届が東京都江東区長あて提出されたため、戸籍にその旨の記載がされるに至つたこと(本件離婚)、控訴人と勇作は、昭和48年2月21日婚姻届を了して夫婦となつたこと(本件離婚)、なお、勇作は昭和56年8月26日死亡したこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

二 ところで、被控訴人は、昭和56年10月15日、原審裁判所に対し、○○地方検察庁検察官(以下「検察官」という。)及び控訴人を共同被告として訴えを提起し、被告検察官に対する関係においては、本件離婚は被控訴人の関知しない間に勇作がほしいままに離婚届を提出したことによるものであり、被控訴人には離婚意思がなかったとして、本件離婚の無効確認の判決を、また、控訴人に対する関係においては、本件離婚が無効であることを理由に控訴人と勇作との本件婚姻は重婚に当たるとして、その取消の判決を、それぞれ求めたこと、原審裁判所は、右各請求につき弁論を分離することなく審理を遂げ、昭和59年4月26日、被控訴人の右各請求を全部認容する旨の原判決を言い渡し、右判決正本は、いずれも同年5月2日、検察官及び控訴代理人にそれぞれ送達されたこと、控訴代理人は、原判決を不服として、同年5月11日、当裁判所に対し、被控訴人を相手方として本件控訴を提起したこと、これらの各事実は本件記録上明らかであり、被告検察官が原判決に対し控訴の提起をせず控訴期間を徒過した事実は、当裁判所に顕著である。

三 以上の事実によれば、原判決中、被控訴人と被告検察官との間において、本件離婚の無効を確認する部分は、控訴が提起されなかったことにより、所定の控訴期間の最終日である昭和59年5月16日の経過により確定したことが明らかであり、そして、右のとおり本件離婚を無効とする判決が確定したことにより、控訴人においても右判決の効力を受け、本件離婚が無効であることを争い得ないこととなつたものである(人事訴訟手続法18条1項準用)。

控訴人は、被控訴人の前叙本件各請求は、原審被告である検察官と控訴人との両名全員につき合一にのみ確定すべき場合(必要的共同訴訟)であるから、控訴人の本件控訴により原判決中本件離婚を無効とする部分についても確定が遮断されている旨主張する。しかしながら、訴訟の目的が共同訴訟人の全員につき合一にのみ確定すべき場合(民事訴訟法62条)とは、訴訟の目的である権利又は法律関係についての訴えの提起あるいは判決が、各共同訴訟人全員につき合一にのみなされるべきであり、区々となつてはならない法律上の必要がある場合をいうのであつて、単に事実上又は論理上合一確定の要請があるというだけでは足りないと解すべきところ、被控訴人の検察官及び控訴人に対する原審における前叙本件各請求は、本件離婚の無効が本件婚姻の取消請求の前提問題(先決事項)となつているとはいえ(他方、本件離婚無効の請求は本件婚姻の取消を何ら前提とするものではない。)、法律上はそれぞれ別個独立の請求として別個独立の訴訟物であり、当事者適格もそれぞれ法定されていて、訴えの提起も判決も別個独立になされ得べく、本件離婚の効力についての判断が右各請求についての判断において区々になってはならないという要請は、人事訴訟手続法18条1項(準用)所定の既判力(あるいは形成力)の拡張を考慮にいれても、現行法制のもとにおいては、いまだ論理的要求にすぎないものというべきであるから、訴訟の目的(すなわち本件各請求)が検察官及び控訴人の両名(共同訴訟人)全員につき合一にのみ確定すべき場合(判決が合一にのみなされるべき法律上の必要がある場合)には当たらないといわなければならない(本件のように、離婚無効の請求と婚姻取消の請求とが一つの訴えを以て提起された場合でも、事案によつては、離婚無効の請求について弁論を分離し先に審理判決することもおこり得るのである。)。

したがつて、控訴人の右主張は、前提において理由がないので、採用することができない。

そうとすれば、控訴人と勇作との本件婚姻は、勇作と被控訴人との婚姻関係が存在するにもかかわらず、これと重ねて成立したことになるので、本件婚姻の取消を求める被控訴人の請求は、当事者双方のその余の主張につき判断するまでもなく、正当として認容すべきである。

四 よつて、右と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法95条、89条を適用して、主文のとおり判決する。

〔参照2〕関連事件(東京高 昭59(ネ)3256号 昭59.12.25判決)

主文

本件控訴を却下する。

本件参加によつて生じた訴訟費用及び控訴費用は、すべて控訴人補助参加人の負担とする。

事実及び理由

一 一件記録によれば、次の諸事実が認められる。

1 被控訴人は、昭和56年10月15日、原審裁判所に対し、○○地方検察庁検察官(以下「検察官」という。)及び本件控訴人補助参加人たる中野貴子を共同被告として訴えを提起し、被告検察官に対する関係においては、被控訴人と原判決主文一掲記の亡中野勇作(以下「勇作」という。)両名の昭和48年2月20日届出による離婚(以下「本件離婚」という。)は、被控訴人が関知しない間に勇作がほしいままに離婚届を提出したことによるものであり、被控訴人には離婚意思がなかつたとして、本件離婚の無効確認の判決を、また、被告中野に対する関係においては、本件離婚が無効であることを理由に、被告中野と勇作両名の昭和48年2月21日届出による婚姻は重婚に当たるとして、その取消の判決を、それぞれ求めた(以下、この訴訟事件を「基本事件」という。)。

2 原審裁判所は、右各請求につき弁論を分離することなく審理を遂げ、昭和59年4月26日、被控訴人の右各請求を全部認容する旨の原判決を言い渡し、右判決正本は、いずれも同年5月2日、被告検察官並びに被告中野代理人にそれぞれ送達された。

3 被告中野代理人は、原判決を不服として、同年5月11日、当裁判所に対し、被控訴人を相手方として控訴を提起した(以下、この控訴を「別件控訴」と、その控訴状を「別件控訴状」という。)。なお、別件控訴状に添付して当裁判所に提出された被告中野の訴訟委任状には、委任事項として、原判決中被告中野に関する部分について控訴を提起する件は明示されているが、被告検察官に関する部分につき訴訟行為をする件については何ら触れられていない。

4 被告検察官は、原判決に対し控訴の提起をせず、控訴期間を徒過した(この事実は当裁判所に顕著である。)。

5 控訴人補助参加人(以下「参加人」という。)代理人は、基本事件の被告中野が別件控訴を提起したのに伴い当審において数次にわたり開かれた口頭弁論が終結された後の昭和59年11月27日、当裁判所に対し、「補助参加の申立書」及び「控訴状の補正申立」とそれぞれ題する書面を提出したが、これによれば、参加人は、基本事件の被告検察官を補助するため訴訟参加に及ぶとともに、被告検察官補助参加人として、原判決中、被控訴人と被告検察官との間において、本件離婚を無効とする部分(以下「被告検察官敗訴部分」ともいう。)を取り消す旨の判決を求める、というものである。

二 右各事実関係によれば、参加人は、昭和59年11月27日、当裁判所に対し、基本事件の被告検察官を補助するため訴訟参加の申立をするとともに、基本事件被告検察官補助参加人として、原判決中の被告検察官敗訴部分につき新たに控訴を提起したものと認められるが(本件控訴)、原判決中被告検察官敗訴部分は、被告検察官が控訴を提起しなかつたことにより、所定の控訴期間の最終日である昭和59年5月16日の経過により確定したことが明らかであるから、参加人の前顕補助参加の申立及びこれを前提とする本件控訴は、いずれも、原判決中、控訴期間の徒過によりすでに確定した部分に係るものとして不適法であり、そのけん欠は補正不能の場合に当たるといわざるを得ない。

なお、参加人代理人が昭和59年11月27日当裁判所に提出した同月26日付け上申書と題する書面によれば、参加人代理人は、「基本事件の被告中野は、別件控訴状の提出により、当然に基本事件の被告検察官を補助するため参加する旨申し立て、かつ、被告検察官補助参加人として、原判決中被告検察官敗訴部分についても控訴を提起したものと解されるべきであり、前顕『補助参加の申立書』及び『控訴状の補正申立』は、その趣旨を補完するためのものである。」旨主張するようにも窺われるが、右主張は一件記録を精査し、別件控訴の審理にかんがみても、理由がなく採用することができない。ことに、別件控訴状には、控訴の趣旨として、単に「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。」との判決を求める旨記載されているが、当事者の表示としては、「控訴人中野貴子」「被控訴人飯田イソ」と表示されているだけであつて、それ以外の表示はなく、参加人が被告検察官に補助参加し、かつ、被告検察官の補助参加人として検察官のために控訴を提起する趣旨は何ら表示されていないのであつて、右控訴の趣旨が後に準備書面により「原判決中一審被告中野の敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。」との判決を求める旨訂正されていること(別件控訴状の記載等についての右各事実は一件記録上明らかである。)は、しばらくおくとしても、また、原判決中本件離婚を無効とする部分が確定することに伴い、基本事件の被告中野がその判決の効力を受けることになる等の諸事情を考慮に容れてみても、被告中野及びその訴訟代理人が原判決に対し被告検察官のため(被告検察官敗訴部分の確定を阻止するため)にも控訴を提起する意思であつたことを、別件控訴状の記載から認める余地はなく、また、別件控訴状を提出したことにより、当然に主張に係るような補助参加の申立をしたのと同一の効果を認めることもできないのである(この点につき、最高裁判所昭和43年9月12日第一小法廷判決・民集22巻9号1896頁参照)。

三 以上の次第であるから、参加人の前顕補助参加の申立は却下し、本件控訴は民事訴訟法383条により口頭弁論を経ないで判決をもつて却下することとし、訴訟費用に関し同法94条、95条、89条を適用して主文のとおり判決する。

〔参照3〕一審(浦和地 昭56(タ)99号 昭59.4.26判決)

主文

一 被告検察官に対する請求に基き、原告と中野勇作(本籍・被告中野貴子に同じ、大正3年3月25日生、昭和56年8月26日死亡)との協議離婚(昭和48年2月20日東京都江東区長に対し届出)はこれを無効とする。

二 被告中野貴子に対する請求に基き、被告中野貴子と亡中野勇作(一掲記)との婚姻(昭和48年2月21日東京都江東区長に対し届出)はこれを取消す。

三 訴訟費用は、原告に生じた分を国庫及び被告中野貴子の連進帯負担とし、被告両名に生じた分をその各自負担とする。

事実

当事者の求める裁判

原告  主文一、二項同旨及び「訴訟費用は国庫及び被告中野貴子の負担とする。」との判決

被告ら それぞれ「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

主張

原告

(請求原因)

一 原告と亡勇作(主文一項掲記の者、以下、勇作という。)とは、昭和15年11月25日婚姻の届出をした。

二 原告・勇作に関し、主文一項の協議離婚の届出(以下、本件離婚という。)がなされ、その旨戸籍に記載されている。

三 原告・勇作とも離婚をした事実も、離婚の意思もなく、また、原告には離婚届出の意思も事実もない。本件離婚の届書は、勇作が恣に作成提出したものである。よつて、本件離婚は、無効である。

四 勇作と被告貴子は主文二項のとおり婚姻の届出(以下、本件婚姻という。)をし、その旨戸籍に記載されている。

五 本件婚姻は、勇作に配偶者たる原告が存するので、重婚にあたる。

六 勇作は、主文一項のとおり死亡した。

七 よつて、原告は、被告検察官に対し本件離婚無効、被告貴子に対し本件婚姻取消の各判決を求める。

(認否反論)

八 被告貴子主張二の事実中、原告が昭和43年肩書住所に転じ勇作と別居したこと、同被告と勇作との間に同被告主張のとおり2子(以下単に、2児という。)が出生し認知されたこと、勇作が同被告主張の日入院(以下、本件入院という。)をしたこと、それまで原告が同被告や2児を問題にしていないことは認めるが、その余は否認する。

原告は、勇作に対し、終始愛情をもつて接し、円満な家庭生活を続けてきた。

勇作は、かつて陸軍将校であつたが、戦後は本籍地で電器商「○○電機商会」を経営していたところ、昭和43年10月頃これを廃業し、○○○○○○○組合に就職し、その際原告肩書住所に居住用の土地建物(以下、高崎宅という。)を購入し、原告をこれに転居させたが、自己は仕事先の東京への通勤が困難であるとしてこれに常住しなかつたものの、本件入院に至るまで月2回位は原告の肩書住所(高崎宅)に戻り、すくなくとも原告やその間の子らに向つてはよき家庭人としての言動に終始した。そのため、原告は、勇作に被告貴子やその子やその子らの存在があるなど夢にも思わなかつた(原告は、勇作の経歴から、勇作の仕事に口出しせず、その言動に疑いをもたない控え目の習癖が身についていた。)。

原告が勇作に他に2児のあることを知ったのは、本件入院当日のことであり、その翌日戸籍謄本で本件離婚、本件婚姻の届出のなされていることをはじめて知つた。

九 被告貴子主張三の事実は否認し、その主張は争う。

高崎宅につき原告への財産分与などの処置がとられないのであれば、本件離婚は債権者の追及を避ける手段となりえない。

十 被告貴子主張四の事実は否認し、その主張は争う。

尤も、原告は、昭和52年8月15日頃高崎市の国民健康保険税納税通知により、自己が原姓(飯田)とされていることをはじめて知つた。原告は、これを勇作に糺したところ、勇作から「<秘>の仕事の必要から戸籍を分離しただけで、離婚ではない。5年ほどで仕事が終るから、籍も戻すし、一緒に(高崎宅で)暮らす。」と言い逃れられ、不審には思いながら、これをもつて勇作と離婚したとも思わなかつたが、夫婦が戸籍を別にするのはおかしいからすぐ戻すよう再三勇作に申入れた。

被告 検察官

事実関係すべて不知

被告 貴子

一 請求原因一、二、四、六の事実を認め、同三の事実を否認し、同五は争う。

二 原告は、昭和43年肩書住所(高崎宅)に転じ勇作と別居し、勇作との婚姻関係の実態は失われていた。

一方、被告貴子は、勇作と昭和43年頃から(昭和47年からは肩書住所-以下、川口宅という。-において)生活をともにし、その間に昭和42年10月6日長男裕之、昭和44年3月20日二男勇太(いずれも、勇作が本件婚姻と同日に認知した。)が出生した。

原告は、遅くとも昭和55年には、勇作と被告貴子との関係やその間の子(2児)の存在を知つたが、勇作が病気で倒れ入院(本件入院)した昭和56年8月4日まで、これを問題としていない。

三 原告・勇作は、昭和43年以降勇作の事業の失敗により経済的に窮迫し、その債権者の追及を免れるため、双方協議のうえ、原告の了解のもとに、勇作において本件離婚の届書が作成提出された。

よつて、二の事実いかんに拘らず、原告・勇作とも法律上の婚姻関係を解消する意思を有し、それに基いてされた本件離婚は有効である。

四 原告は、本件離婚後、原姓飯田で生活しており(住民票、国民健康保険証、選挙入場券など)、その頃には本件離婚の事実を知つていたのであるから、もし、原告に離婚意思がなければ、離婚無効とする手続が可能であつたのに、勇作の死亡まで8年余かかる手続をとつていない。このことは、原告に本件離婚時に離婚意思のあつたことを推認させるし、また、すくなくとも、本件離婚を追認したものというべきである。

証拠関係[略]

理由

一 請求原因一、二、四、六の事実、原告と勇作との間に長女柳井咲子(昭和17年生)、二女長谷部良子(昭和20年生)、三女谷間秀子(昭和23年生)のあること及び被告貴子と勇作の間に同被告主張二のとおり2児があつて、勇作に認知されたことは、方式趣旨により真正に作成された公文書と認められる(以下、かかる書証につき単に「公文書たる」と表示する。)甲第1号証、弁論の全趣旨により明らかである。

二 公文書たる甲第2号証(本件離婚の届書の公務所以外の作成部分の作成に関しては後述する。)、証人中野玲子と同谷間秀子の証言により成立を認める甲第21号証、証人山下耕三の証言(第1回)、原告本人尋問の結果によれば、勇作が原告及び右届書上の証人中野良作、同山下耕三に無断で(事後にもその旨を告げることなく)、それらの名義を冒用して、本件離婚の届書を作成提出したことが認められる。

被告貴子は、原告・勇作が経済的に窮迫し、勇作の債権者の追及を免れるため、双方協議のうえ、原告の了解のもとに本件離婚の届書が作成提出された旨主張するところ、当時原告・勇作が経済的に窮迫し債権者の追及を恐れる状態にあつたか否かはしばらくおくが、原告にその旨の認識があつたことを窺わせる証拠はないし、債権者の追及を免れる目的のため、本件離婚の事実が広くあるいは一定の関係者に告げられたり、本件離婚に伴い債権者の追及を免れるための財産上の処分がなされ、又は、それらの企てがされたことは証拠上全く窺えないばかりでなく、勇作にとつて、本件離婚が債権者の追及を免れる方便ではなく、被告貴子との本件婚姻の前提手段であつたことは、前記のとおり本件離婚翌日に本件婚姻及び2児認知がされたことから明らかというべきである。

尤も、証人飯田キサの供述や乙第6号証中には、勇作の死後、原告がキサに対し、債権者の追及を免れるため、本件離婚の届書に自署したと述べたとの部分(前掲甲第2号証からすれば、原告が右届書に自署したことは事実に反する。)、乙第5号証の1(山下耕三からの伝聞)、乙第9号証、証人山下耕三の供述中同旨部分(証人山下耕三の証言(第1、第2回)によれば、山下耕三は、勇作の死後、本件訴訟の提起に反対の立場で行動していることが認められ、その供述を裏付なく信ずるのは慎重を要する。)は、いずれもにわかに措信することができない。

その他、被告貴子の右主張に副う証拠はなく、本件離婚につき、原告の了解のもとに届書が作成提出されたものでなく、原告には当時その届出の意思がなかつたものといわなければならない。

三 前記一の事実、公文書たる郵便官署作成部分のほか原告本人尋問の結果により成立を認める甲第3ないし第7号証、証人谷間秀子の証言により原告主張の頃撮影されたと認められる甲第8号証の1ないし14、公文書たる甲第16号証の2、4、第29号証、証人谷間秀子の証言により成立を認める甲第15、第20、第21、第27号証、原告本人尋問の結果により成立を認める甲第30号証、公文書たる郵便官署作成部分のほか弁論の全趣旨により成立を認める甲第14号証の2、第28号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第9号証の2、第13号証の1ないし5、第16号証の5、6、第23号証、証人中野玲子、同谷間秀子、同長谷部良子(第2回)、同飯田キサ、同山下耕三(第1、第2回、各1部)の証言、原告、被告貴子(1部)各本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

1 勇作は、もと陸軍将校(職業軍人)であつたが、戦後、東京都江東区○○に居住し、電気器具商「○○電機商会」を経営していたところ、昭和43年これを廃業して、同都文京区○○の○○○○○○○○組合連合会に雇傭され、同年10月頃高崎宅を買入れ、原告や長女咲子を転居させたが、自己は勤めの都合と称して(主な意図は、被告貴子との関係にある。)概ね東京で生活し、週1度位(その後漸次減じた。最終は、本件入院直前の昭和56年8月1日)原告とともに高崎宅(昭和52年には増築し、最後まで勇作はこれを自宅とみていた。)で起居する状況にあつた。

2 勇作は、一方では、遅くとも昭和33年には被告貴子と性関係ができ、同被告にアパートを借りるなどして足繁く通い続け、さらに、昭和46年同被告において川口宅を買入れ(その資金の出所はしばらくおく。)た後は、概ねこれに起居して、ある面では一家庭の実態を具えるに至つていた。

3 しかし、勇作は、昭和56年8月4日病気で倒れ、本件入院をするまで、原告やその間の3人の娘やその家族らとの間に不和もなく、深い交際を続け、本件離婚(届)後も同様であり、原告その他右記の者や姉飯田キサ、弟中野良作、同山下耕三を含む親戚の者、勤務先(原告を扶養配偶者とし、被告貴子や2児を被扶養者としない。)やその関係の者に対し、原告との離婚、被告貴子との関係、2児の存在に気付かせるような言動はとらなかつた。

以上のとおり認めることができる。証人藤田弘の供述するところは、何故に勇作が同証人だけに被告貴子や2児の存在を明らかにしていたのか首肯しえないので、措信しない。その他、右認定に反する前掲各証人、本人の供述部分は措信せず、他にこれに反する証拠はない。

被告貴子は、原告は遅くとも昭和55年に勇作と被告貴子との関係、2児の存在を知っていた旨主張し、証人山下耕三(第1、第2回)、同中野玲子の供述、甲第21号証、乙第9号証の記載にはこれに副うかにみえる部分がある。しかし、これらを綜合すれば、山下耕三、中野良作(いずれも勇作の弟)や原告・勇作の親戚の者も、被告貴子との関係や2児の存在を知り事態を重視し、その解決を図つたことがないことが認められるので、耕三・良作らも2児の存在や勇作と同被告との深い関係を信じ真剣に受止めたとは考えられず、ましてや、原告やその娘らが右の者からこれを聞かされていてもこれを信じたとは考え難い。その他、原告が勇作と同被告との関係、2児の存在を本件入院前に知つたと認めるに足りる証拠はない。

以上によれば、本件離婚については、勇作・原告の夫妻にとつて離婚の事実がなく、すくなくとも原告には離婚の意思もないものといわなければならない。勇作にとつて、事実上重婚の状態にあることはこれを左右しない。

四 被告貴子は、原告が本件離婚後原姓飯田で生活し、本件離婚の事実を知りながら、無効等の処置にでなかつた旨主張するところ、戸籍の記載が住民票の記載、ひいては、地方公共団体の住民に対する通知その他の処置の基礎となる現制度下にあつては、原告が本件離婚(届)後ほどなく、自己が戸籍上飯田姓とされていること、ひいては、本件離婚の事実を知つたものと推認すべきである。原告は、本人尋問において、勇作と戸籍は別になつても離婚したわけでないと信じ、昭和56年8月の本件入院後にはじめて本件離婚の事実を知つた旨供述しており、この点についてはなお検討を要するところであるが、証人谷間秀子、同長谷部良子(第2回)の証言、原告本人尋問の結果によれば、原告は、自己の戸籍が勇作のそれから分けられたことにつき、勇作に糺したところ、勇作から「仕事が終れば、籍を戻すから、子供にも誰にも話すな。」との返答を得たほか、昭和56年8月1日まで原告やその意を受けた娘らと勇作との間で再三同旨の要求回答が繰返されていることが認められる(この事実は、前記三の3の事実、ことに前掲甲第9号証の2により認められる昭和52年にも勇作は原告を組合健康保険の被扶養者としていること、証人谷間秀子の証言により認められる本件入院後勇作が娘秀子らの求めるまま甲第15号証を書いて前記回答と同様の約束をしたことなどにより十分裏付けられる。)。

以上によれば、原告は勇作が無断で本件離婚届を出したこと(その意味をどのように解したかはしばらくおく。)を知り、勇作の死亡直前まで自らあるいは娘を介してその復元を求めていたものということができ、本件離婚(届)後勇作の本件入院ないし死亡まで8年余の経過の故に、原告が本件離婚につき離婚意思があつたと推認することもできないし、ましてや、原告が本件離婚を追認したと解することは不可能である。

五 以上いずれの点をとつても本件離婚は無効というほかなく、したがつて、本件婚姻には民法732条に違反するとの取消事由がある。

よつて、原告の本訴請求はいずれも正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法89条、93条、人事訴訟手続法17条を適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例